ともあれ、――このロナルド・アデイアの事件だけは、私にとっては全く何物にも比較されない、大悲劇であった。私は予審調書を読んで、この事件は何者かあるいは、数人の謀殺であると知った時は、シャーロック・ホームズの死は、社会にとってはどんなに大きな損失であるかと云うことを、以前にもましてしみじみと痛感させられたのであった。私はこの事件にこそ、彼の敏腕に俟(ま)つものが、多々あると確信した。大に警察の探査を補助し得たことはもちろん、更にあるいは、この欧羅巴(ヨーロッパ)最初の犯罪取扱業者の、精錬された観察と、周到な活動は、警察力以上もの偉力を発揮したかもしれなかった。私はこの事件に、一日一ぱい心身を傾倒して考えてみたが、しかし結局、何等の首肯される解釈も、発見することは出来なかった。このもう旧聞である、物語を繰返すことは、あるいは興味索然とするかもしれないがしかし審理の結果得られた事実を基(もとい)として、ここに概括してみようと思うのである。