ロナルド・アデイアは、当時濠洲殖民地の、一知事であった、メイノース伯爵の次男であった。そしてアデイアの母は、白内障(そこひ)の手術を受けるために帰国して、息子のロナルドと、娘のヒルダと一緒に、レーヌ公園の第四百二十七番に住んでいた。この青年ロナルド・アデイアは、貴族階級の中に往来し、見受けるところ、別に敵と云うようなものもなく、また取り立てて、不徳義であると云ったようなこともないようであった。彼はカーステイアスの、エディス・ウードレー嬢と婚約の間柄であったのを、つい数ヶ月前に破棄となったのであったが、しかしこれも両方の和解の上にやったことであって、別に深い意趣をのこしたと思われるようなことも無いことであった。その他彼の私生活を見れば、それはごく狭い通俗な範囲であった。