彼はおもむろにこう答えた。
さてその九時半が来たので、私はかつてよくやったように、馬車の中に彼と隣り合って坐った。ポケットの中には拳銃(ピストル)が秘められ、私の胸は無暗にわくわくと慄(ふる)えた。ホームズはと見れば、冷静に粛然と黙している。街灯の光で見える彼の厳粛な面影、――沈思に耽っているのであろう、両の眉は茫然と放たれ、薄い唇は固く結ばれている。一たいこの犯罪の都ロンドンの、暗黒な籔の中から、果してどんな獲物を狩り出そうと云うのであろう! 何しろこの狩猟長の厳粛な表情を見ると、この冒険はなかなかの重大事であると云うことは、看取されたが、またそれと共に時々漏れるこの苦行者の暗欝の中からの嘲笑は、この探険に対して何等かの自信を思わせるものであると思われた。
私達はベーカー街にゆくものと思ったら、ホームズはキャベンディッシの辻で、馬車を止めた。それから彼は馬車から降り立って、左右に鋭く注意し殊に曲り角では、誰かに尾(つ)けられはしまいかと、驚くべく細密な注意を払った。