その家の中は漆のように暗かったが、私はすぐに空家であると気がついた。床板はギシギシときしみ、壁からは紙片(かみくず)が、リボンのように垂れ下っているのが手に触った。ホームズはその冷い痩せた指を私の手首にまいて、天井の高い下をぐんぐん進む、私は朧(おぼろ)にドーアの上に、欄間窓を見止めた。ここでホームズは右に曲り、我々は四角な大きな室に来た。角々(すみずみ)は暗黒に翳り、ただ中央だけが往来からの余光でかすかに明るい。近くにはランプも無く、また窓は埃が厚く積っているので、我々はただお互にその輪廓を見止め得るだけであった。彼は私の肩に手をかけて、唇を耳元に持って来た。そして囁いた。