しかし俄然私の友人の鋭い感覚が、敏(さと)く識取していたものを、私の感覚も受け取った。すなわち低い低い、忍び入るような音が、私の耳の底にかすかに響く、――しかもそれは、ベーカー街の方からではなく、自分達が隠れ忍んでいるこの家の後の方から来る音である。扉(ドア)は開けられ、扉(ドア)は閉められた。やがて廊下に忍びこむ音、――それから秘めに秘められた足音。しかしどんなに忍ばせてもやはり、空家の森閑とした中には、荒々しく反響する、――ホームズは壁の側(そば)に、這い寄ったので、私も彼に従って、壁の側に寄って跼(うずくま)った。