兇行の行われた当夜は、彼はきっかり十時に倶楽部から帰宅した。母と妹は、親戚の者と一夕の交際(つきあい)のために、外出して居なかった。女中の陳述に因れば、女中は彼が、彼の日常の居室になっている、表二階の室に入る気配を聞いたのであった。そしてしかもその表二階の室は、女中は前もって火を入れ、煙(けぶ)ったので窓を開けておいたのであったと。それから十一時二十分まで、――すなわちメイノース夫人と娘が帰って来るまでは、全く何の音もしなかったのであった。アデイアの母は、「お寝(やす)み」を云おうと思って、息子の室に入ろうとすると、どうしたことか扉(ドア)には鍵がかかっており、それから驚いて激しくノックしたり、叫んだりしても、更に返事さえも無いのであった。それから助力を借りて、扉(ドア)を無理に押し開いてみると、果然! この不幸な青年は、テーブルの近くに斃れているのであった。